実践総合農学会  
 

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現象の予測と警告,そして人類の選択肢の拡大を期待する
 

 

東京大学名誉教授 学術会議 第六部副会長長 
唐木 英明
 

  ●持続可能な開発の重要性
   私たちは、今、人類史上始めての、地球規模の大問題 に直面をしています。そして、そのような認識を共有す る皆様によって、本日、実践総合農学会が設立されるに至ったと理解をしています。この人類史的課題を、日本学術会議は、地球の物質的有限性と人間活動の拡大とによって生じた「行き詰まり問題」としてとらえています。
 地球の有限性は、空間的制約としてよりも、資源・環境の制約として認識ができます。私達はより「豊かな」生活を求め、生活基盤を拡大し、多数の生物を絶滅に追いやり、発展や成長の名の下に資源を使い尽くしました。地球温暖化や森林の減少、酸性雨の問題もこうした状況の一端にほかなりません。人間活動の飽くなき拡大は、20 世紀を戦争の世紀としましたが、21 世紀を環境破壊の世紀にする可能性が極めて高いと言わざるを得ません。さらなる人口増加が予測される中で、すでに地球の限界にまで達した人間活動をさらに拡大できるのかという問いこそ、まさに人類史的課題ということになります。人間活動の拡張が地球の有限性により制約をされるという意味で「行き詰まり問題」と考えるのですが、いかに困難な問題であっても、人類の英知を結集して、それを打開し、人類社会の安定と持続の道を見つけなければなりません。
   このような問題の解決のために、人類社会が共有すべき目標として「持続可能な開発」という概念が広く受け入れられつつあります。しかし、それは現在もなお抽象的な命題にとどまり、具体的な方策が十分に示されていません。その具体化を図ることが、今日の人類社会全体に課せられた重要な課題であります。
 

  ●環境の変革と意識の変革
   行き詰まり問題の解決のために、2つの方向が考えられます。その一つは「問題を取り巻く環境を変える」ことです。19 世紀の人類は、疫病の恐怖から逃れることはできませんでした。
   ところが、20 世紀の医療技術の進歩によって、今や人類のほとんどは天然痘やペストの恐怖と無縁に暮らすことができるようになりました。このように人類は科学技術の発展によって問題を解決してきたのであり、今後もこのようにして解決策を見いだしていくことを期待することができます。
   行き詰まり問題のもう1つの解決法は、「私たちの意識や価値観を変える」ことです。これには、「足ることを知る」など、一定の価値基準の下で要求水準を下方修正する場合と、価値基準そのものを変革してたとえば、物質・エネルギー志向から心の豊かさを求める志向に転換するという方向があります。いずれにしても、欲望の抑制や価値観の方向転換によって、問題解決の可能性を広げようとする考え方です。
 

  ●科学者の役割
 −予測と警告,そして人類の選択肢の拡大−
   このように考えると、一見解決策がないように思われる行き詰まり問題に対しても、解決策を見いだす可能性が生じてきます。そして、私たち科学者はこの問題の解決に向けてどんな貢献ができるのかが問われています。この問題に学術が貢献できる方法が2つあります。第1は事実の分析・予測と警告です。現在60 億人を超えたと言われる地球上の総人口が21 世紀半ばに90 億人に達すると予測すると、現在の1.5 倍の資源が必要となります。所得・生活水準の南北格差を考え、90 億人全員が、より「豊か」な北の生活水準を目指そうとした場合には、さらに数倍の資源が必要となります。それと同時に、生産力の変化や資源の探査や活用の能力の変化をはじめ、省エネルギー技術や循環型社会を支える技術開発などの要因も重要です。
   学術が貢献すべきもう一つの点は、持続可能な開発を実現しうる人間活動の選択肢を提示することです。たとえばエネルギー消費を削減しても、現在と同程度の豊かさを感じるためには、どのような社会システム、あるいは新技術が必要か。持続可能な開発はどのようなメカニズムで実現しうるのか。このような困難な問いに、深い洞察力を持って具体的な回答を提示することは、学術以外の領域には期待することが困難であります。
   人類社会は、物質・エネルギー循環と情報循環という2つの過程を軸として成立しています。人類の歴史を見る限り、問題の解決に大きな力を発揮してきたのは新たな技術の創造、すなわち、自然界の物質・エネルギー循環への働きかけであります。具体的には、農耕、牧畜、鉱物資源の採取、品種改良、さらにはバイオ技術の適用等であり、その多くが農学関連の分野です。そして、ここに本学会設立の大きな意義があります。
   一方、こうして創造された新たな技術の適用・普及は、情報循環の媒介があってはじめて実現されます。すなわち物質・エネルギー循環と情報循環が同時に実現されたときに、人類社会が今までに遭遇したこともない「行き詰まり」もまた解決される可能性があります。このように、科学者の役割がきわめて重要でありますが、日本学術会議の吉川弘之元会長は、科学者の役割について次のように述べておられます。「社会に対する科学者の助言には多様なものがあり得るが、それは大きく2つに分けられる。1つは科学者が研究実行者の立場で行なうもので、あるべき研究の課題、規模、実施方法などについて提言するものであり、個々の研究者に固有な内発的提案である。科学者にはもう1つの立場がある。科学者は科学的研究方法を身につけており、しかも科学的な、体系的な知識を獲得した経験を持つ。これは科学者に独自の能力を付与するものであり、この能力によって、科学者は中立的で、かつ他の助言と矛盾しない「調和的な助言」をすることが可能となる。そしてこのような助言を行なう者に対し、杜会は信頼を寄せるのである。日本学術会議が行なおうとする助言は、この第二の立場に立つ助言に他ならない。」
   実践総合農学会設立の趣旨は、山際会長が述べられたように、「生き詰まり問題」の解決であり、日本学術会議が目指す総合的、俯瞰的な視点を具体化するものであります。実践総合農学会が日本学術会議と強い連携を保ちつつ地球が直面する人類史的課題に対して、総合的、俯瞰的な立場からの助言を与えていただくこと期待して、お祝いの言葉とさせていただきます。
 

   
   

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