実践総合農学会  
 

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農学研究の最前線では今何が
 

 

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構理事長 
三輪 睿太郎
 

   三輪でございます。私の報告では,農業・生物系特定産業 技術研究機構(農研機構と呼ばせていただきます)の研究内 容を中心に,最後に実践総合農学会への期待について話し ます。農研機構では,約1,500人の研究者を全国に配置 して、農業,畜産,園芸など日本農業の技術開発に直結す る研究を行っております。
 現在の日本農業は厳しい国際競争に置かれていますが, そうした中で消費者に対する食料供給面で重要な役割を果 たし,消費者の信頼を得ている産業であるということが一番の強みであると思っています。なお,信頼を得ている理由としては,次の4つを整理することができます。
  ●日本農業4つの信頼と課題
   1つは日本の果物に代表されますように, 「高い品質に対する信頼」です。2つ目は, 食料の自給をしっかりしてほしいという「応 援的信頼」であり,国内自給率の向上に対す る応援です。3つ目は,国際的に競争でき る農業を確立するために効率的な経営を目 指して欲しいという「規模拡大・コスト削減 への信頼」,そして4つ目は日本の素晴らし い環境と調和する産業としての農業を構築してほしいという「環境面での信頼」です。こうした4つの信頼が日本の農業を支える基本だと思っています。なお,この4つの全ての信頼を獲得して初めて,国民に支持される農業になることができます。農業生産者ならびに私達のような技術開発に携わるものは,常に品質,自給率,コスト低減,環境保全を調和できる技術を開発することが重要であります。
   農研機構では1,500人の研究者が4つの信頼を獲得すべく,研究のターゲットを毎年、論議をして定めております。2004年は,「地域農業の展開を支える技術開発」「農林水産バイオマス事業技術」「環境保全型病害虫防御技術」「品質と信頼を高める農産物生産流通技術の開発」,そして最後に「先端科学を活かした新しい技術の開発」の5つの技術開発をターゲットに定めて研究活動を展開してきました。
 

  ●日本産小麦に夢をかける
   まず「地域農業の展開を支える技術開発」です。この研究課題では,日本の食料自給率向上のための生産拡大に重点的に取り組んでいます。その代表が「小麦」です。現在,わが国で消費している小麦のほとんどがカナダやオーストラリアからの輸入したものです。そのため,輸入小麦から国産小麦に転換することによって,食料自給率はかなり高まります。具体的には,うどんなどの麺の利用のための国産小麦の品種改良の研究を推進しています。一般的に小麦を使用した食品は,たん白質含量が高い硬質な小麦と,たん白質含量が低いソフトな小麦の2つを配合して,製品の食感や用途を決めています。まず,麺専用の小麦の育成に的を絞り,主として麺の食感に大きな役割を果たす澱粉の改良を目指して品種改良をしました。澱粉はアミロースとアミノペクチンから構成されています。糸のような構造のアミロースが多いと柔らかくなり,麺としては物足りなくなります。そのため,アミノペクチンという網目上の構造を持った澱粉にしますと、もち米のような弾力性に富む食感が生まれます。かなり難しい課題がありましたが,遺伝子源を集約してアミロースが低くてアミノペクチンが多い小麦を育成することができました。輸入小麦の代表でありますオーストラリア産のASWと比較しても,滑らかさ,念弾性,硬さ,外観では「あやひかり」「ネバリゴシ」という品種ではASWにほぼ近いか、それを上回っています。このほか主な品種としましては,「チクゴ イズミ」や「さぬきの夢2000」という低アミロ ースの品種があります。
   また,パン用の国産小麦の開発にも私達は取 り組んでいます。パン用の小麦は普通、春播き 小麦ですが,非常に収量が低いという問題があ りました。そのため,パン生産に適した秋播き の国内小麦の品種育成に取り組みました。最初 に手がけたのは「ニシノカオリ」という秋播き小麦で,九州沖縄農業研究センターで育成しました。これがきっかけになりまして、パン用の国産小麦に対する需要が高まり,今年になりまして北海道で「キタノカオリ」を育成しました。また,「ニシノカオリ」の後継品種で「ミナミノカオリ」という香り三姉妹と呼ばれている品種が育成されました。今年の9月行われた2005年産民間流通麦の入札では,これらの小麦は,市場平均価格を100としますと,いずれも市場価格の上限である107という高い価格で入札されました。
   また,食料自給率を高めるもう一つの重要な戦略作物は大豆です。大豆の品種につきましては,数年前までは「エンレイ」という昭和46年に育成された品種と、「タマホマレ」という品種が主流を占めていました。最近,この品種に変わるものとしてたん白質含量,粒の大きさ,収量性に優れた「ハタユタカ」「あやこがね」などの大豆が開発されております。ただ大豆は生産が不安定であり、不作・豊作により毎年価格は乱高下します。数年前ですが大豆の価格が大暴落したことがありますが,その原因の一つが外観が非常に汚いということでした。この原因はコンバイン収穫の脱穀部後半に茎が詰まることにあることを究明し,コンバイイン収穫時の茎の流れを改善して克服しました。
 

  ●米の低コスト化に挑戦
   また,米に関しては様々な局面から低コスト化に取り組んでいます。国産米の品質については消費者の高い評価を得ていますが,コスト削減が最大の課題です。具体的には,苗を作る手間とお金を節約するため,田植えをやめて直播に転換しようという研究を実施しています。しかし,直播の普及には様々な問題があります。そのため,育苗を箱ではなくトイレットペーパーのようなロール方式にする技術を開発しました。現在,1haの水田を田植えで行うためには,約200箱の苗箱が必要で,その運搬・管理仕事が大変です。ロールにしますと,この労力が大幅に軽減されるということで,現在急速に普及しております。この技術は,本年度の「つくば賞」を受賞しました。
   さらに,わが国の食料自給率の低下をも たらしている原因として,家畜のえさの大 部分を輸入に頼っていることを指摘できま す。現在,米の需要が減少しておりますの で,水田で麦や大豆を作るだけでなく,家 畜のエサ用の米を生産するための技術開発 に挑戦しています。家畜のエサとしての米 の場合,超多収が大きな課題となります。 大体乾物で10アール当たり2トンの収 量を目標として「ホシアオバ」「クサノホ  シ」という飼料専用品種を育成しました。なお,これらの品種の育成にあたっては牛の食味や栄養に配慮しております。なお,こうした飼料稲はサイレージにして乳酸発酵させて牛に食べさせます。この発酵のプロセスが非常に大事であり,よく発酵しないと牛も食べてくれません。そのため,「畜草1号」という乳酸菌を開発して,牛の嗜好性が高いサイレージ生産を可能にしました。
 

  ●特色ある地域農業を促進する
   また,地域ごとに個性的な農業生産システムを開発し,良い意味で地域間の競争を行い,消費者に多様でバランスのとれた食を提供することが大切です。これまで馬鈴薯の品種としては,「男爵」と「メイクイーン」が中心でしたが,地域農業の個性を高めるため様々な色と機能性をもった馬鈴薯の品種開発に取り組でいます。
 西日本の傾斜がきつい山間地では農作業が非常に大変です。特にみかん山での作業は様々 な問題を抱えています。そこで重力差を活用した水源  を作り,パイプを通して導水するとともに,その過程で 適切な液肥を自動混入してマルチを張ったみかん樹の下 に直接点滴のようにチューブで潅水する方法を考案しま した。これによって,非常に品質の高いみかんを安定的 に生産することが可能になりました。この技術を導入し た和歌山のみかんはこの秋,良い価格で売れています。
 

  ●未来のエネルギーバイオマス資源
   原油価格の高騰と廃棄物による環境悪化が叫ばれる中で,いかに植物資源・廃棄物資源の有効利用を実現するかが大きな課題となっています。特に植物資源の食料利用だけでなく,エネルギー利用の可能性についても研究を進めています。例えば,従来のさとうきびの品種よりもはるかに大きな「モンスターケーン」という新しい品種を開発しました。これは,糖を採ってこれをアルコール発酵させて燃料に使うという発想で,アサヒビールとの共同研究で進めています。さらに,食用に使った油の廃油をディーゼル油や軽油として利用する技術が開発されています。従来の方法ではグリセリンなどの副産物が生産され,その処理が問題となっていましたが,我々は「超臨界メタノール法」とう方法を開発し,原料油脂を全て燃料として利用できる技術を開発しました。
   さらに水分が高くて燃やしにくい,また発酵しずらい畜産廃棄物や焼酎カスもあります。そのため,ガス化を促進するためのバイオマスのプラントを開発して,発生する熱を原料の乾燥にまわしてトータルに糞尿や廃棄物を電力や飼料に変えていこうという技術開発をしました。この技術は特に九州で実用化が進んでいます。
 

  ●安全・健康な農産物の生産を夢見て
   環境保全型の農業技術として病害虫の防除は大きな課題であります。これまでも様々な技術が開発されてきましたが,営農現場における病害虫防除技術は中途半端では普及しません。そのため,現場で使えるようなリアリティーのある技術を迅速に開発することをターゲットにしています。現在,臭化メチルやクロルピクリンなどの薬剤を用いた土壌消毒が大きな問題になっています。そのため,薬剤を用いない土壌消毒法として熱風で消毒する技術を開発し,九州を中心に利用されて効果も上げています。
   また,水質汚濁を防止するため化学肥料を使わない技術開発に挑戦しています。化学肥料の成分は窒素,燐酸,カリで,特に窒素と燐酸が水質汚濁に関係しています。日本の場合,外国からたくさんの食品,農産物を輸入するために,それらの処分も大きな問題となっています。できるだけ土に返して循環させ環境を保全していかなければなりません。そのためには,化学肥料の使用を削減して,その代わりに堆肥を使う方法が重要な課題となります。こうした方法の効率を計算しますと,家畜の飼料を自給する方法が一番効率が高いことがわかりました。
   もうひとつは環境の問題を論ずるときに農家の水田や畑を個別で考えるのではなく,地域の地形を利用するという考え方が重要です。静岡県の牧の原台地では,茶園に沢山投入される窒素肥料の流脱が問題となっていますが,それを棚田で浄化するという方法が効果を発揮しています。
   なお,現在は高齢化さらには外食や中食の一般化の中で,健康問題が注目を浴びています。そうした中で農産物や食品の機能性が注目されています。特にお茶には花粉症を軽減します。「べにふぶき」というお茶にはアレルギーを防止する効果が知られています。また,腎臓病患者のための低たん白のお米の開発も好評でした。
 

  ●日本の農産物を守る技術開発
   一方,食品や農産物の偽装表示や偽物問題も非常に多くなり,食品や農産物の信頼低下を招いています。特に日本で育成した優れた品種が外国に持ち出され,その製品が逆輸入され日本の農産物を圧迫するという問題が発生しています。例えば,日本で育成した「とよのか」や「とちおとめ」が韓国で生産され輸入されています。こうした問題に対しては,DNA診断技術を開発して対応して成果を上げています。また,有機農産物であるかの証明についても,自然放射能の存在比を使って,有機肥料のみで作った作物と、化学肥料のみで作った作物を識別できる方法を開発しました。
   また,遺伝子組み換え作物に対する消費者の拒否反応が非常に強いことは承知しています 。しかし,安全性に最大限の注意を払 いながらその可能性に関するデータを 蓄積していくことは重要だと考えてい ます。いま注目しているのは,「複合 病害抵抗性の稲」の作出です。現在発 生している稲の病害に対してかなり安 定した抵抗性を示しており,数年後の 実用化を目指して,今年から環境安全 性の評価を行っています。
   農業というものは単純に採算性で割り切れない側面を沢山もっています。農業は国の根幹であり,国民の皆様の命や健康を支える重要な産業です。また,それぞれが農業や食料,そして環境に対して多様な意見をもっていることも十分承知しております。そのため,農業の試験研究の展開にあたりましては,農家も消費者もそれを理解し,口に出すことが必要です。学問や研究に携わる専門家は,専門家同士の知識や意識の交流とともに,それらを受け止めるネットワークを作ることが必要です。そういう意味で実践総合農学会の趣旨に大きな共感を覚えています。相互に連携しながら,日本の農業の発展,食料の安定的供給,そして素晴らしい環境の保全のために力を尽くしていきたいと考えております。
 

   
   

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