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 <特集1>バイオテクノロジー最前線@

  
   ポストゲノム時代のバイオテクノロジーは何をめざすか
 

 

東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科 河野友宏 教授
 

  2004年のバイオサイエンス界の話題をさらった単為発生マウス“Kaguya”。その成果は、農学領域におけるバイオテクノロジーの研究レベルの高さの証明ともいえる。今後、いったいどんな展開が期待できるのか、“Kaguya”の生みの親、河野友宏教授にうかがう。
 
  ●世界で初めて単為生殖で誕生した“Kaguya”
   2004年4月、東京農業大学の河野友宏教授らのグループが、それまで困難とされたいた哺乳動物の単為生殖による個体発生に成功し、雌の卵子だけから「単為発生マウス」を誕生させたことをイギリスの科学誌『Nature』に発表した。竹取物語のヒロイン「かぐや姫」にちなんで“Kaguya”と名付けられマウスは、日本だけでなく世界中の注目を集めた。河野教授はこう語る。
「まず、哺乳動物の個体発生には、雄と雌に由来するゲノムがともに不可欠であることを理解していただきたいんですね」
   単為発生というと、雄は不要だと思われがちだが、そうではない。
「考えてみると、哺乳動物は不思議な動物です。受精した卵からしか次世代が生まれません。また、母親の胎内でのみ育つ。この2つがセットになっていて、他の生物のように、単為生殖による個体発生は見られません。次世代を残すために、哺乳類はどうしてこのような戦略を獲得したのか。その仕組みを生殖細胞に着目して解明したいというのが、私の当初の興味関心でした」
   哺乳類の細胞には、主に雄ゲノムでのみ発現する遺伝子と雌ゲノムのみで発現する遺伝子があり、これらはインプリント遺伝子と呼ばれている。単為発生の胚では、雌と雄のゲノムそれぞれに由来するインプリント遺伝子の発現に過不足が起こり、個体発生を遂げることができないと考えられている。また、インプリント遺伝子の発現をコントロールするのは、遺伝子に後からつけられた修飾機構であるとされている。
   「そこで、未成熟な卵母細胞は、インプリント遺伝子に関して、比較的精子に近い性質をもっているのではないか。こう仮定して、これに雄ゲノムの役割をさせようとしたんです。しかし、なかなか個体発生には至りませんでした」
   なぜ個体発生を完了することができないのか。その理由を突き止めようと単為発生胎仔の遺伝子を網羅的に解析したところ、未成熟な卵母細胞は極めて雄ゲノムに近い性質をもっていたが、いくつかの雄ゲノムで発現すべき重要なインプリント遺伝子が発現していないことがわかった。
「未成熟卵のゲノムに雄ゲノムの役割をさせるためには、ゲノムの修飾を雄型に変える必要があるんです。それで、装飾を雄型に直したところ、雌ゲノムのみをもつ胚から“Kaguya”が誕生したというわけです」
“Kaguya”誕生までに費やした年月は10年。“Kaguya”は順調に成長し、子を産んだ。
 

  ●“Kaguya”は、まったく新しい生殖方法に道を開いた
   「今回の研究にはいろいろな意味があるんですが、1つには、雄雌ゲノムの機能の差は、その化学的な修飾の違いによることが実証できたことがあげられます」
   現在、ヒトをはじめ代表的な生物のゲノムの解読は、ほぼ終わっている。しかし、それらが、実際にどんな働きをしているかはまだわかっていない部分が多い。
   「今は、『ポストゲノムの時代』といわれているんですね。遺伝子の塩基配列を解読するだけでなく、それがどんな仕組みで働いているのかを明らかにしていく必要があります。遺伝子の働きをコントロールしている仕組みとしては、遺伝子の修飾機構が大事な役割を担っていることがわかってきました。私たちの研究は、正にそれを実証しようとしたわけです。ようやくいい研究材料ができたので、今後は、雌雄のゲノムが発生の過程でどういうネットワークをもち、相互作用をしながら、個体発生を進めていくのか、それを解明していきたいと思います」
   応用面ではどうか。河野教授らの研究は、クローンとはまったく違う新しい個体発生の途を開いた。卵子があり、その遺伝子の修飾さえ改変できれば、哺乳類でも単為発生が可能だ。
「有用動物の育種や希少動物の保全などにも役立つでしょうし、生殖医療や再生医療などの分野にも応用できる技術だと思います。ただ、私たちの研究は、まだ芽が出たばかりです。今すぐ技術革新や個体の生産に結びつくものではありません。しかし、生殖細胞の性情や仕組みを明らかにして、それをうまく扱う技術を開発していくことは、非常に重要だと思います」
 

  ●農学には、発信できる情報がたくさんある
   農学分野では、家畜の繁殖や改良のために、体外受精や人工授精など、人為的に生殖細胞を取り扱う生殖科学や生殖工学を発達させてきた。“Kaguya”の誕生にも、畜産分野で開発されてきた核移植の技術が使われている。
   「農学というと、応用的な学問のように思われがちですが、もともと家畜や農作物の生産など動植物に関わる学問なわけですし、生命科学についての学問的、技術的な蓄積がたくさんあります。私たちの研究にしても、10年前に、核移植の技術を駆使して単為発生胚を構築する手法を開発したことで、はじめて可能になったんですから。そうした技術や情報をもっと広くいろいろな方面に発信できるようになればいいと思います。いや、もうなりつつあるのかもしれません」
   今日の農学は、大学の学部学科名にも顕著な通りとおり、大きく様変わりしている。とりわけ先端研究を担うバイオテクノロジーの分野からは、続々と新しい研究成果が報告されている。河野教授の研究がその1つとして選ばれた「農林水産技術会議が選んだ04年の10大研究成果」でも、バイオテクノロジー関連の研究が目立つ。
   「私たちの研究は、農学の中では、基礎と応用の中間くらいに位置していると思います。学際領域ですね。しかし、そういう研究が必要だし、農学の中でもだんだん大きなウエイトを占めるようになってきていると思います」
   農学は、かつての畜産や農作物の増産のための学問という枠組みを超えて、より大きく深い学問領域へと変貌をとげている。東京農大の総合研究所では、2005年度から、「先端研究プロジェクト」が立ち上げられる。学内の若手教授や助教授クラスを中心にテーマを募り、採用されたテーマにについては、大学がコストを負担して、80%は教育の現場を離れて研究に専念してもよく、研究をサポートする博士課程修了程度のスタッフも用意するという。河野教授は、この「先端研究プロジェクト」のコーディネーター役を務める。「一人の研究者がやるというのでは、研究の進度についていけない状況です。農学の研究スタイルも変えていく必要があるでしょうね」 
   
 

  聞き手:ルポライター 秩父啓子
   
   

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