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 <実践総合農学のおもしろ研究紹介>

  
  
日本の面積を4倍に広げる方法
 

 
 

東京農業大学国際食料情報学部
 金田憲和

  「日本の面積を4倍に広げる」−。
そんな夢のような話は、いったいどういうことなのか。
研究に取り込む東京農業大学国際食料情報学部の
金田憲和助教授に聞いた。
   
Q

「日本の面積を4倍にする」のは、たとえ海の埋め立てを行ったとしても不可能なことのように思われますが、一体どういうことなのでしょうか?
 

A  もし、日本のように国土が狭い国で、食糧が自国の限られた農地でしか生産できず、さらに自分の国の中でしか経済活動ができなかったとしたら、日本人の食生活は非常に貧しいものにならざるを得ません。しかし、実際には、日本は高所得水準のおかげで、農産物を海外から輸入し、豊かな食生活を享受しています。
   さて、農産物を輸入するということは一体どういうことであるのか、土地と関連づけてもう少し深く考えてみますと、農産物の輸入は「間接的な土地(農地)の輸入」であることがわかります。つまり、日本がアメリカから小麦を輸入するということは、小麦を栽培する土地をお金を払ってアメリカから借りるのと同じ意味があるということです。実際に、ワシーリー・レオンチェフの「産業連関分析」という経済学の分析法で計算しますと、日本の農地面積は1985年には583万ヘクタールでしたが、「間接的に輸入」している農地の面積はその3.2倍に達しています。もとからの日本の土地もカウントすると4.2倍、すなわち、「日本の土地を4倍に広げている」ことになるのです。
   
Q

日本の国土を「間接的な土地の輸入」で広げられるとは、とても好都合な話のようですが、実際にこれに頼り続けていた場合どのようなことが起こるのでしょうか?
 

A 海外で不作になった場合、輸入食物の値段が高騰し、食糧安全保障に問題が起こります。また、輸出用農産物の生産量増加のために、資源を枯渇させてしまう結果を招くような農法が採用されるようになった場合、環境に関する問題も発生してきます。さらに、日本が経済力に任せて海外の資源をどんどん使ってしまって良いものかというモラルの問題もあります。食物が国内で生産できなくなったら輸入すればいい、それだけで豊かな生活ができるんだ、という考え方では済まされません。
 

Q 「土地の間接的輸入」という概念をグローバリゼーションの流れの一つとしてみた場合、どうお考えになりますか?
 
A 基本的に、貿易はプラスであると考えています。アメリカのように広大な土地があり大規模な農業ができる国から農産物を日本が購入し消費するということは、経済効果の面においてはプラスであると思います。しかし先ほど述べたように、海外からの農作物輸入に頼った場合のリスクも考えなければならないし、またもし完全に貿易が自由化された場合、日本のように資源の乏しい国は国際競争に生き残れず、農業生産が自国で行うことができなくなってしまうでしょう。完全なグローバリゼーションとは、世界全体が1つの市場となることであると思いますが、それが果たして良いことであるかどうかを判断するにはさらなる考察が必要であると思います。世界中には、さまざまな農業があります。もし完全に貿易が自由化されますと、日本の稲作農業はなくなってしまうでしょう。それぞれの国の独自の農業は残すべきであると思います。農業は文化と深い関わりがあります。完全なグローバリゼーションは、そういった文化を完全になくしてしまう恐れがあります。グローバリゼーションの経済効率と地域の独自性のバランスを考える必要があると思います。
 

Q このアプローチをとるきっかけは何だったのでしょうか?
 
A 以前は、土地をこのアプローチで扱う研究はありませんでした。しかし、労働力や生産設備の間接的な輸出入という概念は、国際経済学の中に以前から存在していました。先ほどもご紹介しましたが、ワシーリー・レオンチェフの「産業連関分析」が代表的なもので、アメリカの貿易における外国からの間接的な労働力の輸入、また生産設備の輸出入の比率を計算し、論理的な問題について考察しています。それを土地に応用したのが私の研究です。経済学の概念を、いかに農業に応用していくかということについて考えようと思ったのです。
  経済学ではいくつかの極端な仮定をおいて考察を行いますが、私の場合これを応用し、もう少し現実化できるようにモデルを変えます。また、数学だけでなく実際に統計データを使います。現実の世界は経済理論と全く同じに動いているわけではありませんから、理論と実際の世界がどうなっているかその両方を見ながら考察しています。
  私の所属する学科は食料環境経済学科というところで、社会学が重視されていまして、農村社会学という研究を行っている研究者も結構います。一般的に、経済学部経済学科というところですと、社会学を取り入れている研究者はそれほどいないでしょう。東京農業大学は、大学全体の雰囲気として実際の現場を重視するという傾向にあります。私も理論だけでなく現実の統計データとの比較をしながら研究を行っており、実践農学という姿勢を心がけるようにしています。
 

Q 今後はどのように研究を発展させていこうとお考えですか?
 
A この研究は、即実践に役立つというものではないかもしれません。しかし、この研究を出発点とし、さまざまな方向に派生させ、さらに多種多様の研究につなげていけると確信しています。私自身が行っている研究ではありませんが、すでにいくつかの研究が行われています。一つは、「エコロジカルフットプリント」といわれるものです。人間が生きていくためにどのくらいの土地を使っているかを、農産物だけでなく漁業も含め、さらにエネルギーについてもローカルベースで計算します。例えば、アメリカ人や日本人は地球全体と比較して、どれほど土地を使っているのか、使いすぎているのかなどを考察する研究です。この研究をより幅広くしたものが水に関するもので、バーチャルウォーターという概念があります。農産物を作るには水が必要ですから、土地の概念と同じように「水の間接輸出入」もあるわけです。たとえば、中東のような水資源の乏しいところでは、貴重な水を使って農業を自国で行うよりも、農産物を海外から輸入し、少ない水資源は農産物以外のために有効に利用できるという考え方もできるわけです。このように間接的な貿易あるいは、資源を使うということを広げて考えていきますと、環境問題など広範囲な問題に対し応用できるのではないかと考えています。
 

Q 農産物は「買う」「輸出入する」という意識がありましたが、資源的なものを「買う」「輸出入する」という意識や概念はいままで持っていなかったような気がします。
 
A 地球の大きさは変わらないのにどんどん人口は増え、だんだん皆が豊かな生活をするようになってきました。例えば、中国は非常に人口の多い国ですが、目覚しい勢いで経済発展をしています。中国は、今まで所得レベルも低かったのため物の消費量も多くはありませんでした。しかし、中国の人々が日本と同様なレベルの食生活をした場合、膨大な資源の消費となります。一般的に、生活が豊かになると肉食になる傾向があります。1985年の調査によると、日本が農産物の輸入で間接的に輸入した農地の面積では雑穀が一番多いのですが、この雑穀のほとんどは家畜の飼料です。土地の概念から言うと、ほとんど家畜の飼料を輸入するために土地を「輸入している」わけなのです。これと同じことが中国で始まると、予想のつかないことが起きるかもしれません。品物は資源とつながっているものですから、品物の消費増加だけでなく、トータルで考えなければなりません。
 

Q 今後の抱負について教えてください。
 
A アジア全体について、土地と環境についてもう少し広げた形でやって行きたいと思っています。また、さらにアジアから世界全体に発展させていこうとしていこうと考えています。私の研究は数字を扱う地味なものに見えるかもしれませんが、経済モデルの改善方法などを発見したときなどは、非常な喜びをと一歩一歩前進していくという確信と充実感を得ることができます。貿易、土地、環境とそれぞれ違った方向のように見えますが、どれにも深い興味を抱いており、バランスよく研究に取り組んでいきたいと考えています。
 

  聞き手:本誌編集委員 大石康代
   
   
   

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