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 <特集1>バイオテクノロジー最前線A

  
  
生命反応の主役,細胞内タンパク質の働きを解明する
 

 

東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科 
千葉櫻 拓 助教授
 

  バイオテクノロジーの研究は、今、目を見張るような勢いで進んでいる。2005年度から立ち上げられる東京農業大学の「先端研究プロジェクト」は、正にその最先端部分を担っている。期待の集まるプロジェクトの研究代表、千葉櫻拓助教授に、その研究について、お話をうかがう。
 
  ●「先端研究プロジェクト」の3つの柱
   東京農業大学総合研究所では、2005年度から、「先端研究プロジェクト」を立ち上げる。「動物細胞機能の質的変化における新規分子ネットワークの解明とその機能評価」と題するテーマでプロジェクトを進めることが決まった千葉櫻拓助教授は、その研究について、こう語る。
  「ちょっと難解なタイトルですが、私たちヒトを含めた動物の細胞の中には、遺伝子の情報によってつくられた、さまざまなタンパク質があります。生命反応の主役は、このタンパク質なんです。酵素といったほうがわかりやすいかもしれませんが、そのさまざまなタンパク質がくっついたり離れたりしてネットワークをつくり、お互いを抑制したり、活性化したりすることによって生命が維持されています。そこで、このタンパク質のネットワークの様態と機能を、細胞、組織、個体のレベルで、それぞれ明らかにしていこうというのが、この研究の大きな目的です」
   プロジェクトは、千葉櫻助教授、喜田聡助教授(応用生物科学部バイオサイエンス学科)、山本祐司講師(応用生物科学部生物応用化学科)の3人で行ない、千葉櫻助教授は、動物の細胞を増殖させたり抑制したりする細胞内物質のネットワークとその働きの解明を目指す。山本講師は、栄養素やホルモンなど、細胞の外部からの刺激が、細胞内物質にどのような経路で影響を及ぼしていくのかを、結節性硬化症をモデルに研究する。また、喜田助教授は、特に脳の記憶・学習、本能・情動といった機能に着目して、神経細胞(ニューロン)内の物質が、どのように神経回路網(ニューロンネットワーク)に影響を与えるかを、遺伝子操作によってつくられた脳機能障害マウスを使って明らかにする予定だ。
 

  ●細胞の増殖・分化は、たくぱく質のネットワークが制御している
   研究の1つのキーワードは「ネットワーク」である。
「タンパク質の設計図である遺伝子の情報、ゲノムの解読が進んでいます。例えば、ヒトのゲノムは2万3千くらいで、マウスもほとんど同じ。ショウジョウバエが1万を超えるくらいで、酵母菌でも6千くらいはあります。だから、遺伝子によってつくられるタンパク質の種類はそう違わない。でも、高等生物には、これだけバラィエテイに富んだ細胞があり、複雑な働きをしています。それは、高等生物では、さまざまなタンパク質が組み合わさることによって、いろいろなバリエーションを生み出しているからだといわれています」
   千葉櫻助教授は、これまで細胞の増殖をコントロールする仕組みを研究してきた。千葉櫻教授によれば、細胞が増殖する過程には、さまざまなタンパク質が関わっており、それらがアクセル役やブレーキ役となって、その進行を制御しているという。
  「細胞の中では、CDKというタンパク質が細胞増殖のエンジン役として知られています。しかし、このCDKは単独では働けず、サイクリンという別のタンパク質と結合することによって、その機能を発揮します。サイクリンがアクセル役なんですね」
 しかもサイクリンは、次々と異なった種類のタンパク質と結合していき、そうすることで、増殖の過程を進めていく。
  「一方で、ブレーキ役のタンパク質もあります。昨年、私が論文にまとめたデータでは、アクセル役のタンパク質を人為的に活性化して、ブレーキ役のタンパク質を3つ外したところ、細胞増殖が暴走しはじめ、がん化の兆候が見られました。2つまでは外しても大丈夫だったんです。実は、私たちの体の細胞はむやみと増えない。際限なく増える細胞が『がん』なんです。ですから、ブレーキ役のタンパク質の働きによって、私たちは健康を保っているといえるわけで、しかも、それが何重にも用意されている。すごいことですね」 細胞内のタンパク質のネットワークを解明するといっても、実際には容易なことではない。キーになるようなタンパク質を中心に、さらにそれに関わるタンパク質がどんな働きをしているかを探っていく。具体的には、遺伝子を細胞内に注入し、特定のタンパク質を増やして、その周辺にどんなタンパク質があるかを調べ、その機能についての仮説を立てる。そして、実験を重ねることによって、それを実証していくのだという。
  「足したり引いたり、警察が犯人をしぼり込んでいくのに似てますよ。くっつくタンパク質によって働きが違う場合があって、だからネットワークが大事なわけですが、ある種、人間社会の縮図のようでもありますね」
 

  ●将来は、有用物質の生産に役立てたい
   「この研究の最終的な目標としては、有用物質の生産ということを考えています。私の研究に関していえば、細胞増殖のアクセル役に注目して、ある特定の細胞を増やす、例えば、インスリンを出す膵臓の細胞を増やして糖尿病の治療に役立てるとか、筋肉細胞を増やして畜産面での育種や品種改良に役立たてることもできるでしょう。また、ブレーキ役に注目すれば、がんなどを抑制する物質を見つけることもできると思います」
   ブレーキ役のタンパク質には、栄養素などの外部からの刺激が影響する。山本祐司講師は、その刺激になるような物質や細胞の中で刺激を伝達する物質(シグナル伝達因子)を解明し、その働きを調べることで、がんなどの治療に役立てたいという。また、喜田助教授も、個体の行動などを制御するような細胞内物質を明らかにして、精神障害治療や育種に結びつく研究にしたいという。
  「動物の細胞で働く物質は、動物の細胞でつくらないとうまく働かないことがあるんです。だから、動物の細胞だけを増殖させて、そこで、薬剤などの有用物質を生産するということも考えられます。細胞を工場のように使うということですね。それも、例えば、『がん』細胞は増殖力が高く、体外に出してもその勢いが衰えません。ですから、『がん』細胞に有用物質を作らせるということもありえます。体内にあるから支障があるのであって『がん』は、産業的には大変都合のよい細胞かもしれないのです。まだまだ、夢のような話ではありますが……」
 

  聞き手:ルポライター 秩父啓子
   
   

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