学会設立の趣旨
多くの人に開かれた創造的学術活動で食農と環境のネットワークを広げる
20世紀における科学技術の革新は,人々を病気から守り,豊かな食を提供し,そして利便性あふれる生活と素晴らしい生活環境を実現した。しかし,その繁栄の陰で20世紀は多くの負の遺産を人類・生物・地球に残し,次世代の生命の生存を脅かす事態を招いている。同時期に近代科学としての発展を遂げた農学は,「緑の革命」に代表されるように食料生産効率の飛躍的な向上に大きく貢献し,人類は飢餓の恐怖から一時的に解放された。また,農学は人類の健康を支える多様な食品の開発,快適な生活環境の創造にも貢献してきた。こうした貢献の中で農学は急速に専門深化するとともに,専門が類似した研究者同士の研究活動が支配的になっていった。その結果,多彩な農学研究者に共通するパラダイムが失われ,研究分野ごとの相互理解に立って真の学際研究を実施することが困難になってきた。つまり,深い専門性・科学性に裏付けられた問題解決学としての農学の実践性・総合性が失われつつあるのである。
いま「新たな知の創造」と「新たな知の応用」を目指す問題解決型農学の再構築が緊急の課題となっている。現在,私達の前には,地球環境や資源の保全問題,安全・安心な食料を持続的に生産・加工・流通できる技術やシステムの解明,環境共生型の食料飢餓の克服システムの開発,人類の健康を支える食と食文化の解明,人間ばかりでなく多くの生命が快適に生存できる地域環境の創造など,従来の科学の方法論である要素還元主義的な方法だけで解決することが困難な問題が横たわっている。こうした高度に複合された問題の解決には,農学の各研究分野が専門深化型の学術研究の成果を,常に実社会の問題に照らし合わせて解決の道筋を検討する「新たな共通認識」を創造することが必要である。そのためには,農学研究者だけでなく企業,農業生産者,消費者,マスコミなど多様な価値観と知識の体系を保有している人々のノウハウや知恵の活用が不可欠である。私達は従来の農学の専門領域にとらわれず,多くの人々が参加できる「実践総合農学会」を立ち上げることを決意した。本学会は,地球上のあらゆる「いのち」の持続的繁栄を実現するとともに,その繁栄のシステムと素晴らしい地球・地域環境の次世代への継承を学術的に推進することを目的としている。そのため,高度に複合された問題の解決に貢献できる基礎的な研究成果の創造と利活用,専門分野の統合による俯瞰的アプローチの推進,現場の様々なノウハウ・知恵を活用するための人的ネットワークを拡大し,社会および多くの人々に開かれた創造的な学術活動を展開して社会に貢献したいと念願している。
平成16年11月28日
実践総合農学会設立大会参会者一同