実践総合農学会会長 門間 敏幸
<発表課題一覧と発表方法>
2024年度 実践総合農学会 個別研究発表は、12月14日(土)13:00~17:30に東京農業大学サイエンスポートにおいて、ハイブリッド方式で開催された。今年度は、例年になく報告数が多く、しかも興味深い研究課題が多かった。本学会では、若手研究者の研究意欲・研究成果の発表意欲向上のため、個別報告の発表に対して、以下の2つの表彰を行っている。
(1)優秀研究発表賞【若手研究者部門】
特に優れた研究を発表した者のうち、大会報告時に35歳未満で学生会員を除く者を対象とする。
(2)優秀研究発表賞【学生部門】
特に優れた研究を発表した者のうち,大会報告時に35歳未満の学生(大学院生を含む)を対象とする。
そのため、優秀研究発表賞の候補となる報告に対しては、すべての審査員が候補者を平等に審査できるように<A会場>に集め、すべての審査員がA会場に集まって審査を行うようにした。その結果<A会場>11課題、<B会場>5課題、そして高校生発表3課題の計19課題の報告があった。会場ごとの発表課題の一覧は、以下のとおりである。なお、A会場の「教育団体会員」とは、研究室単位で学会に加入している学生会員を示している。また、高校生の発表に対しては、すべて参加者が聞けるように、個別報告と重ならなうように時間配分を行った。
なお、オンラインでの発表は、A会場1課題、B会場1課題であり、残りの17課題はすべて対面で発表を行った。
<A会場>
- 古家 大夢ほか・教育団体会員(大学):小豆島における地域活性化に関する高校生の意向
- 鈴木 優映ほか・学生会員:産地における馬肉消費の特徴-熊本県の消費者を対象として
- 井上 小由季ほか・教育団体会員(大学):小豆島における移住者増加に関する要因の解明
- 福田 誠也ほか・教育団体会員(大学):有機給食の実施要因と課題対応-オーガニックビレッジを対象とした比較研究-
- 笠原 春乃ほか・教育団体会員(大学):食農に関わる地域クラスターの促進方策の解明〜クラスター理論の援用による岩手県「もち姫商品化プロジェクト」と先駆的事例の比較に基づく〜
- 半田 唯清ほか・教育団体会員(大学):JAが参画するメガ団地事業の実態と成功要因-秋田県メガ団地事業における経営資源の利用に注目して-
- 五十嵐 結菜ほか・教育団体会員(大学):JAが主体となった農商工連携による企画・開発商品の認知状況と購買行動-JAさいたまの「黄金の雫梨グミ」を事例として-
- 早川 瑠奈ほか・教育団体会員(大学):消費者の食料備蓄行動の実態とその規定要因
- 西地 希美香ほか・教育団体会員(大学):消費者が重視する非常食の機能性-Best -Worst Scalingを用いて-
- 斎藤 祐眞ほか・教育団体会員(大学):情報提供の違いが食料備蓄に対する消費者意識に与える影響
- 谷 学人ほか・正会員:徳島県における阿波藍の産業構造とその課題-2000年代以降を中心に-
<B会場>
- 向 雅生ほか・学生会員:蛍光色素ナイルレッドによるプラスチック検出の教材研究と教育実践
- 関 正貴ほか・学生会員:コミュニティ・スクールに必要な要因について-茨城県の高等学校における調査より-
- 前川 哲弥ほか・正会員:知的障害者を対象とした農的活動を組み込んだ学習プログラムの検討
- 田中 裕人ほか:正会員:国境離島における入島税の支払意志-小笠原村を事例として-
- 望月 洋孝ほか:正会員:オノマトペが食欲に与える影響
<個別研究報告の内容と優秀研究発表賞の選定>
個別研究報告は、学生・若手研究者による発表が11課題、正会員・学生会員による発表が5課題行われた。
<A会場>の学生・若手研究者の研究内容は、特定地域の活性化に関わるもの、有機給食、クラスター型産学連携組織の分析、JAによるメガ団地形成事業や商品開発、食料備蓄・非常食などに関する消費者行動の多面的な分析、阿波藍の産業構造、馬肉消費の特徴の解明など、多様かつ非常の興味深い内容で会った。また、最新の分析手法なども用いた研究もあり、今後の研究の取りまとめが期待できるものであった。
<B会場>の正会員・学生会員の報告は、海洋プラスティクの研修と教材開発、コミュニティ・スクールにおける人材育成と実践的な教材・教育プログラムの開発、知的障害者を対象とした農業活動を組み込んだ学習プログラムの開発、離島入島における入島税の支払意志の解明、オノマトペによる食品などの消費・購入意欲の喚起等、実に多様かつ興味深い内容にかかわる研究成果が発表され、質疑討論が行われた。
優秀研究発表賞は、<A会場。で発表された11課題を対象に、4名の審査員によって「研究資料の明解さ」「報告の明解さ」「研究内容の意義」「研究内容の達成度」「総合評価」5項目で、5段解での評価が行われ、5人の審査員の総合評価平均が高い報告から選抜した。その結果、以下の3報告が選抜された。
◆優秀研究発表賞【学生部門】
福田誠也・平本奈々絵・長谷地慶護・生井菜乃・吉田亮太・野口敬夫・中窪啓介・辻由美子・山本陽子・高柳長直:有機給食の実施要因と課題対応-オーガニックビレッジを対象とした比較研究-
西地希美香・加藤翔市・前田航希・藤森裕美・大浦裕二・菊島亮介:消費者が重視する非常食の機能性-Best Worst Scaling を用いて-
◆優秀研究発表賞【若手研究者部門】
谷 学人・茂木もも子:徳島県における阿波藍の産業構造とその課題-2000年代以降を中心として-
福田らの報告は、オーガニックビレッジを対象として、有機給食の実施要因と課題を実施市町村に対するアンケート分析と先駆的な取り組みを実施している3つの市町の関係者に対する聞き取り調査をサプライチェーンの視点から解明したものである。分析の結果、有機給食の定着のためには、有機農産物の安定確保と品質向上、調達コストにおける価格差の是正、有機農業の支援や調達コストの差額差補填、サプライチェーンを構成する関係組織の連携強化が重要である等、興味深い知見を得ている。
西地らの報告は、非常食や加工食品を備蓄・購入する際に、消費者が重視する項目を明らかにして望ましい食料備蓄のあり方を提案している。この研究が注目されるのは、備蓄に対する消費者の選好の重要度をBest Worst Scalingを用いて相対評価した点にある。また、調査対象も避難所での避難経験者、自宅での被災経験者、被災未経験者に分けて、総計4,400名の有効回答を分析している。分析の結果、非常食に対するニーズが年齢や備蓄行動の特性で異なること、被災経験者と被災未経験者との違い等が明らかにされ、非常食のきめ細かな購買行動が整理された。このことは、避難所などにおける非常食の提供方法等に大きな示唆を与えるものであった。
谷らの報告は、藍の産地である徳島県における阿波藍の産業構造の特徴と変化を2000年以降のデータを用いて産業組織論的な視点で分析したものである。特に本研究では、これまで研究成果の蓄積が少なかった阿波藍の生産に関わる主体の取引状況から、その産構造の特徴と変化を明らかにしている。調査は、藍産業に関わる主体の聞き取り調査を主体としながら、藍染め工房に対するアンケート調査による現状把握を行っている。分析結果から、生産要素としてのタデ藍葉の生産が産業構造を大きく規定しており、すくもの製造技術の継承が行われていること等を整理している。また、最近の特徴としてタデ藍の栽培から染色までを一貫して行う一体生産者が増加するとともに、タデ藍生産農家が高齢化や買い取り価格面から減少していることを確認している。藍産業の今後の振興に当たっては、技術革新、適正な藍の買い取り価格の実現、沈殿藍の併用などによる藍生産農家の支援が重要であることを提言している。